message_2004_2005

会長挨拶

第15-16期(2004-05年度)

2006年をむかえて

江原 裕美(帝京大学)

 2006年があけ、日本国際教育学会の会員の皆様におかれましても新たな気持ちで研究、教育、実践活動にいそしんでおられることとお慶び申し上げます。
 2005年は、4月の春季研究大会(電気通信大学)、11月の第16回大会(東京学芸大学)を成功させ、第11号の紀要も無事発行することができました。両大会の成功を喜びますとともに、先の日本国際教育学会第16回大会の開催の労をお取り下さった東京学芸大学の実行委員会並びに関係各位に対して心から御礼申し上げます。
 世界では経済、情報通信始め様々な分野でグローバル化が進んでいますが、貧困、民族間・宗教間の紛争、環境破壊などの問題解決にはほど遠い状況にあります。各国の利害は複雑に対立し、紛争も軍備の増強もとどまることなく、その中で最貧の人々や地域は置き去りにされがちです。自ら現地に飛び込み、実践する個人や団体の数が増加しているとはいえ、一般には社会の厳しい変化に対応を迫られ、自らに関わることのみに関心を向ける傾向が生じています。圧倒的な情報量にもかかわらず、またはむしろそのゆえに、国際的な現状への思考・感性は鈍磨し、行動することへのハードルが高くなっている状況もあるように見受けられます。しかしながら、世界的に見れば、現在のような生活水準を享受している少数の人間として、世界の現実を知り、自らが出来ることを通じて、ごく小さい範囲であっても社会への貢献に取り組むことが求められているのではないかと思われます。
 このように考えてきたときに、国際教育学会はいかなる役割を担うべきなのでしょうか。それぞれが自らの研究課題に一層真剣に取り組むべきことは言うまでもありません。しかしながら、学会は学会員のためだけにあるのではなく、一つの公共的・社会的な財であるという一面もあります。さまざまに厳しい状況の中でも学会として「出来ることをする」べきではないかと思われます。それは何か派手なことをするという意味ではありません。社会的学問的に見て、国際教育の意義は小さいものではなく、非常に重要なものです。そのことに自覚を持ち、国際教育という学を学会として深く追究すること、そして今までよりも「発信」を重視するということです。「発信」は単に発信として終わるのではなく、研究の交流・向上に資するという観点から重要なものと思われます。具体的には今後さらに検討を進めていきたいと思っております。
 日本の学術研究においては、その存立基盤自体が大きな変化の中にあり、研究という長期にわたる地道な取り組みがむずかしくなりつつあるという面も見られます。激しい競争の中で、学会というものが、単に研究実績のポイントを稼ぐ手段として見なされる傾向もないとはいえません。しかし、小さいながら独自の研究取り組みを行ってきた本学会が今後も生き残っていくということ自体が、学問の自由と深化に意味を持っていくものと信じます。ベテラン、若手、様々な立場から、学問研究の開かれた共同体として育てて行くことが出来ますよう、会員の皆様のご協力を仰ぎたいと存じます。本年もどうぞ宜しくお願い致します。

日本国際教育学会創立15周年を迎えて

江原 裕美(帝京大学)

 1990年に設立された日本国際教育学会は今年15歳となり,11月には第15回記念大会を開催致します.昔で言えば元服という独り立ちの年を迎えることが出来ましたことは,学会としての基盤がようやく固まりつつあることを示しており,会員の一人として心から嬉しく思うと同時に,草創期から尽力して下さった先達の会員の皆様,研究と学会運営に参加されている全ての会員の皆様,様々な形でご支援下さっている皆様に深い感謝を捧げたいと思います.このような重要な時期に会長という大役をお引き受け致しますことは私にとって非常な名誉でありますと同時に,重大な責任を背負い身も引き締まる思いでおります.はなはだ未熟ながら,全力で責任を全うする覚悟でおりますので,会員の皆様のご支援ご協力を心よりお願い申し上げます.
 振り返ってみれば,80年代末からのベルリンの壁の崩壊,ドイツ統一,湾岸戦争,ソ連邦の解体,など世界を揺るがした数年のただ中で本学会は生まれました.戦後世界を枠づけてきた東西冷戦の終結は,戦後関係の地殻変動ともいうべき画期的な出来事であり,政治や経済,そして教育も大きな変化を遂げることになります.そして一つの世紀が終わり,21世紀の始まりに私たちは立ち会いました.日本国際教育学会はこのような時代の変遷とともに生まれ,歩んできたといえるのかもしれません.
 しかし激動は終わりを告げたのではなく,今までの15年間をさらに上回る難しい時代が今後も私たちを待ち受けています.日本は政治経済の大きな改革に向かい,国際社会における役割の再規定に直面することとなり,また世界ではグローバル化の進展の一方で,南北問題の激化,内戦,民族紛争の多発,環境問題の深刻化,など世界規模の問題が山積しています.そのなかで,21世紀は「新しい戦争」と共に幕を開けました.いまだ南アジアを初めとする各地で悲惨な暴力の応酬が続いていますが,こうした事態に対して教育を研究する私たちは一体何をしてきたのか,と自問せざるを得ません.複雑な世界の変化の中で,子どもたちのためのより良い教育環境の整備,世界的問題への取り組み,平和のための国際理解など,国際教育の必要性はかつてなく高まっていますが,日本という国に身を置く私たちの国際教育研究とはどのような位置にあるのでしょうか.そして私たちは一人一人の研究者として何をすべきなのでしょうか.私たち自身への深い問いかけが今まさに必要となっているように思われます.
 このような問題意識から,第15回大会は11月13日(土)~14日(日)に八王子市の帝京大学にて,「グローバル化と国際教育研究の課題」というテーマの下,記念講演と記念シンポジウム,四つの分科会を組みまして,皆様と共に研究や学会の将来について考えをめぐらせ,意見を交換する機会としたいと考えております.多くの方々のご来場を心よりお待ちしています.以上,秋色深まる多摩丘陵での記念大会に是非足をお運び下さいますようお誘い申し上げまして,会長就任のご挨拶を締めくくらせて頂きます.