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会長挨拶

第23-24期(2012-13年度)

第24回大会を終えて

岩﨑 正吾(早稲田大学)

 日本国際教育学会は、1990年8月に設立されて以来、本年度で第24年目を迎えました。激変し、混迷する近年の国際情勢の中で、日々の些事に忙殺されつつも、未来への確かな見通しをもつべく、研鑽を怠らず、研究の歴史をまた一つ積み重ねてこられた会員の皆様に敬意を表したいと思います。
 研究と教育に従事する者として、日々の努力と研鑽の成果を発揮する重要な場の一つが研究大会ですが、9月28日(土)と29 日(日)の両日にわたって、日本大学で開催された第24回大会が大きな成功を修めましたことを会員の皆様とともにお喜び申し上げます。開催までに大変ご尽力下さいました、羽田積男大会実行委員長及び富田純喜事務局長をはじめ、関係者の皆様に心より御礼申し上げます。天候にも恵まれ、爽やかな初秋の息吹を感じる緑に囲まれた桜上水の地で、国際教育の新たな展開と発展のためにきわめて充実した時間を共有できたことに対しまして、改めて日本大学の関係者の皆様に感謝申し上げる次第です。
 さて、私も会長を仰せつかり2年目となりました。まだ短い間かもしれませんが、これまでを振り返り、学会活動が少しでも前進しているとすれば、忙しい中にも惜しみないエネルギーを注いで下さっている佐藤千津副会長、金塚基事務局長及び山崎直也紀要編集委員長をはじめとする理事の皆さんや事務局幹事の皆さんのお陰だと思念するところです。
 今回の大会では、課題研究が2本、公開シンポジウムが1本、そして自由研究が23本でした。私の参加することのできた課題研究、自由研究、そして公開シンポジウムを通して私なりに総括できることは、質の高い報告と発表が繰り広げられ、鋭い議論が展開されたということです。課題研究Ⅰでは、昨年に引き続いて「先住民族の教育権保障に関する国際比較研究2―アファーマティブ・アクションと先住民族学校をめぐる現状と課題―」というテーマで、海外からはオーストラリアのモナシュ大学とロシア連邦サハ共和国の民族学校研究所から、2人の研究者を招聘するとともに、国内からは宇都宮大学の廣瀬隆人先生にご登壇頂き、各国の先住民族をめぐる興味深い報告が行われました。また、課題研究Ⅱでは、「外国につながる子どもの教育・支援に大学がどうかかわるか」というテーマの下に、4人の研究者によって、大学で教鞭をとる多くの会員にとって参考になる喫緊の課題への問題提起が行われました。さらに、公開シンポジウムでは、「学校における国際理解教育の実践と課題」というテーマで、日本大学の渡部淳先生をモデレーターとして、主に高校で国際理解教育の実践に当たられている3人の先生とモンゴル国立大学の研究者による現場での最先端の取り組みと課題について熱心な討議が行われました。司会、報告者及び参加された会員の先生方の熱意と息吹の伝わる良い大会になったと思います。
 ところで、昨年の「第23 回大会を終えて」の中で、国際教育学の本質として、教育における多様な価値の承認と少数言語をも含めた多文化主義・多言語主義の要請について言及したことがあります。多文化主義にはいくつかの流れと系譜があり、多言語主義は背景の異なる国においては母語の使用が幸福につながらない厳しい現実のあることも重々に承知しています。言語的多様性を保持した公共空間の形成という多言語主義の理念は、未だ萌芽的段階にあると言えるのかもしれません。キャメロン(イギリス首相)は、「国としての多文化主義は失敗した」と発言し、「多文化主義国家のドクトリンは、様々な文化がお互いに干渉せず、主流文化からも距離をおいて存在することを推奨してきた。このようないわば隔離されたコミュニティが我々の価値観と正反対の行動をとることすら許容してきた」(2011年2月5日ドイツでの講演)と述べています。また、それ以前にメルケル(ドイツ首相)も、「多文化主義の概念は機能しておらず、移民たちはドイツ社会に融合するために、もっと努力をするべき」(2010年10月28日)と述べています。その意は「ドイツ語を学び、文化的な孤立状態から脱け出してドイツ社会に溶け込むべきだ」とするものです。国家政策の推進と国のあり方に第一義的に責任を負っている「指導者」として、統合がうまくいかない事態に焦る気持ちも分からないではありません。しかし、「隔離されたコミュニティ」という言辞に垣間見えるキャメロンの言う多文化主義とはどのような多文化主義なのでしょうか?また、メルケルはその発言の故に、ジャーナリストや研究者達から厳しい批判が浴びせられましたが、彼女の言う「文化的な孤立状態」とは、「主流文化」のみが「文化である」と言っているようにさえ聞こえます。私たち研究者は、こうした政治家の発言でさえ、問題提起の一つとして受けとめ、自己の批判的思考を鍛えて行かなければならないと思います。
 最後になりますが、日本国際教育学会がますます発展するよう、引き続き頑張りたいと思います。
 どうぞよろしくお願い致します。

第23回大会を終えて

岩﨑 正吾(早稲田大学)

 この度、第12期(2012年~2014年)の会長を引き受けることになりました岩崎です。前田先生が二期ご尽力され、そしてその前に江原先生が二期ご活躍された後を受けまして、どのように日本国際教育学会を発展させていくか、責任の重大さに身の引き締まる思いをしています。私は私なりにいい意味での「個性」を発揮して、日本国際教育学会を発展させていく以外にないと覚悟を決めたところです。
 さて、第23回秋季研究大会は、秋深まる秋田にて無事開催されました。台風の影響が懸念されましたが、第二日目の夕方の帰りの飛行機便等に欠航があり、予定を変更しなければならなかった以外に、天気に恵まれ、まさに秋田の「いい日」を満喫することのできた大会となりました。
 開催にこぎ着けるまでには、山崎実行委員長を始め、国際教養大学の関係者の方々、それに理事会や学会事務局の関係者の方々に大変お世話になりました。厚く御礼申し上げます。また全国津々浦々から参加して下さいました会員の皆さん、そして海外から、とりわけ台湾から学会に参加して下さいました、楊武勲先生を始めとする多くの会員の皆さんにも厚く御礼申し上げます。
 今回の大会では、課題研究が3本、シンポジウムが1本、そして自由研究が36本と地方の大会では考えられないほど、盛大な大会となりました。
 課題研究Ⅰでは、「先住民族の教育権保障に関する国際比較研究」というテーマの下に、オーストラリアから2人の先住民族教育の研究者を招聘し、大変興味深い報告が行われました。また、課題研究Ⅱでは、「東日本大震災における日本在住外国人の対応」というテーマで、日本が直面している喫緊の課題への問題提起が行われました。さらに、シンポジウムでは、「グローバル化時代の魅力ある大学づくり?東アジアの視点から?」というテーマの下に、韓国と台湾の研究者を交えて英語による熱い議論が展開されました。
 これらを通して、まさに日本国際教育学会が創りあげてきた研究の蓄積を背景とした課題への深い考察が行われ、日本国際教育学会ならではの研究大会になったのではないかと思います。
 私は思うのですが、日本国際教育学会のレーゾンデートルは、「国際的である」ということです。それでは「国際的」とは何か、私は以下の3つの意味で指摘しておきたいと思います。
 一つは、研究対象の国際性だけではなく、前会長も指摘されていたことですが、理事を始めとする役員選出にみられるように、日本国際教育学会の組織そのものが「国際的」であるということです。この意味での国際性は、他の学会にはない日本国際教育学会の一つの伝統となっています。
 第二に、私たちは「教育」の真理を研究する学徒として、「国際教育」の内実は何かということを考えておかなければなりません。これには、様々な側面からのアプローチが可能ですが、研究視点の国際性とも関係しており、「国際的」であることは「内と外」および「同質と異質」を含めて「多様なものを認めること」を前提しているということです。私なりに一言で言えば、教育に関わる自己・自地域・自民族・自国中心の価値を相対化し、教育における多様な価値を認め合い、研究と議論を通して共通の価値を創造していこうと努力することではないかと思います。この意味での国際性、すなわち「国際的」であることは、日本国際教育学会がこれまでも追求してきたし、これからも真摯に追求しなければならない課題だと考えています。
 そのためには、第三に、日本における地方語をも含めて、文化を体現する主要な媒体としての多様な言語が飛び交うことを必要なものと見なさなければなりません。現代世界では象徴的・代表的な国際交流語としての英語はきわめて重要ですが、本物の研究と国際主義は、少数言語をも含めて多文化主義・多言語主義を要請しているのではないでしょうか。
 最後になりますが、今回の大会の成功を糧にして、また、これまでの日本国際教育学会の歴史的歩みを大事にしながら、交流の輪を拡げ、会員の増大に努め、研究の深化を通して、日本国際教育学会がますます発展するよう皆さんとともに頑張りたいと思います 。